法定耐用年数はとっくに過ぎている。しかし、現場ではまだまだ現役で稼働しており、愛着もある。そうした大切な工作機械を、工場のレイアウト変更や別の拠点へ移転するために「移設」したいと考えることは自然なことです。
その際、「少し移動させるだけだから」と、自社のスタッフで対応しようとしたり、一般的な事務所移転を扱う運送業者に依頼してしまったりするケースがあります。
しかし、その判断が、取り返しのつかない事態を招くかもしれません。
移設前は問題なく動いていたのに、設置後にどうも精度が出なくなった。 振動が原因で、古い制御基盤が故障し、電源が入らなくなってしまった。
精密機械である工作機械、特に長年稼働してきた機械は、見た目以上にデリケートです。単に「運ぶ」という意識で移設を行うと、故障や精度不良といった最悪の事態につながるリスクが潜んでいます。
古い機械だからこそ、その特性を理解した専門的な移設ノウハウが必要不可欠です。
■ 法定耐用年数と物理的寿命は別物。機械を「活かす」ための3つの選択肢

まず、多くの方が気にする「耐用年数」について整理しておきましょう。
税務上の「法定耐用年数(例:金属加工用のマシニングセンタは10年)」は、あくまで減価償却のために国が定めた目安の年数です。
一方で、機械が物理的に使用できる「物理的な寿命(実用耐用年数)」は、日々のメンテナンス状況や使用環境によって大きく異なります。法定耐用年数を過ぎても、問題なく稼働している機械は世の中に無数に存在します。
では、その「法定耐用年数を過ぎた、まだ使える機械」をどう扱うべきか。大きく分けて3つの選択肢が考えられます。
・① 買い替える
最も確実な方法ですが、当然ながら多額の設備投資コストが発生します。「まだ使えるのに買い替えるのは、予算的に難しい」というのが多くの現場の実情かもしれません。
・② 自社・安価な業者で移設する
コストを最小限に抑えられる方法です。しかし、前述の通り、機械の特性を理解していない移設は、故障や精度低下のリスクと隣り合わせです。万が一、生産ラインがストップすれば、削減した移設費用とは比較にならないほどの甚大な損害が発生します。
・③ 機械設備の専門業者に移設を依頼する
移設コストはかかりますが、機械の特性を熟知した専門家が対応します。運搬時の振動対策から、移設後の精密な据付(すえつけ)・レベル調整までを一貫して行うため、機械を安全に「活かし続ける」ことが可能です。
■ なぜ工作機械の移設は難しいのか?家具の引越しと決定的に違う「精度」の問題

工作機械の移設は、重いタンスや冷蔵庫を運ぶ「引越し」とは根本的に異なります。その決定的な違いは「精度」の維持にあります。
工作機械は、ミクロン単位(1000分の1ミリ)の精度で金属を加工する装置です。その心臓部とも言えるのが、機械が正しく動作するための「水平」です。
専門業者は、移設後の設置場所で「レベル出し」と呼ばれる精密な水平調整作業を徹底的に行います。この作業が甘いと、機械本体にわずかな歪みが生じ、加工する製品の精度が全く出なくなってしまいます。
また、運搬時の「振動対策」も非常に重要です。長年使用してきた機械は、新品時に比べて内部の部品が脆くなっていたり、電子基板が振動に弱くなっていたりする可能性があります。 専門知識のないまま運搬すると、その衝撃でベアリングが損傷したり、制御システムが壊れたりする危険性があります。
耐用年数を過ぎた古い機械は、人間で言えば「骨がもろくなっている状態」に近いかもしれません。だからこそ、その状態を正確に把握し、繊細に取り扱う専門家の技術が求められるのです。
■ 移設コスト削減が招く、取り返しのつかない失敗事例ワースト3
読者の皆様が最も避けたいのは、「移設に失敗して、機械が使えなくなる」ことでしょう。ここでは、コスト削減を優先したがために発生しがちな、典型的な失敗事例を3つ紹介します。
・(1) 移設後に精度が狂い、不良品が多発する
最も多く、そして最も深刻な失敗例です。「なんとなく水平にした」程度のレベル出しでは、精密な工作機械の要求を満たせません。移設後に原因不明の加工不良が続くようになり、結局、専門業者に再据付を依頼することになり、二重のコストが発生するケースです。
・(2) 運搬後に電源が入らない、エラーが出る
古い機械は、制御基盤や配線が劣化していることがあります。運搬時の振動や、移設先での不用意な接続ミスにより、デリケートな電子部品が損傷してしまう失敗です。機械メーカーのサポートも終了している場合、修理が不可能となり、機械そのものを失うことにもなりかねません。
・(3) 設置場所で使えない
これは「運搬」しか頭になかった場合の典型的なミスです。いざ設置しようとしたら、移設先の電源の容量(アンペア数)や電圧が違っていた、あるいはエアーや冷却水の配管の規格が合わなかった、という事態です。これでは機械を動かすことができず、追加の電気工事や配管工事が急遽必要になります。
これらの失敗を回避するために不可欠なのは、「移設前の状態を正確に記録すること(精度や動作確認)」と、「運搬・据付・周辺設備までを専門家が一括管理すること」です。
■ 失敗しない移設業者の見極め方。「ワンストップ対応」が鍵となる理由
耐用年数を過ぎた機械のリスクを回避し、安全に移設を完了させるためには、信頼できる専門業者への依頼が最も合理的です。では、何を基準に業者を選べばよいのでしょうか。
見極めるべきポイントは3つあります。
・基準①:機械の移設だけでなく、電気工事や配管工事も一括で任せられるか?
工作機械の移設は、機械を動かして終わりではありません。必ず電源の接続(電気工事)や、場合によってはエアー、冷却水などの接続(配管工事)が伴います。これらを別々の業者に発注すると、連携ミスが起きやすくなったり、トラブル時の責任の所在が曖昧になったりするリスクがあります。移設から周辺工事までを一括で請け負える業者であれば、窓口が一つで済み、安全かつスムーズな移設が実現します。
・基準②:クレーン車や特殊な運搬機材を自社で保有しているか?
重量物である工作機械の搬出入には、クレーンやフォークリフト、場合によっては特殊な機材(重量物運搬用の台車など)が必要です。これらの機材を自社で保有・運用している業者は、現場の状況に合わせて迅速かつ安全な作業計画を立てることができます。
・基準③:同種・同規模の機械移設の実績が豊富か?
当然ながら、経験は非常に重要です。過去にどれだけ類似した機械を扱ってきたか、そのノウハウの蓄積が、万が一のトラブルを未然に防ぐ力になります。
業者の技術力や対応範囲は、その会社がどのような機材・車両を保有しているかにも表れます。業者のウェブサイトなどで、どのような機材(例えば https://www.zen-kg.jp/tools )を使って作業を行っているかを確認することも、信頼できるパートナーを見つけるための一つの判断材料となります。
■ 愛着ある機械を、1年でも長く。安全な移設が未来の生産性を守る
この記事では、耐用年数を過ぎた古い工作機械の移設に潜むリスクと、その回避策について解説してきました。
法定耐用年数を過ぎた機械は、税務上は価値がないと見なされるかもしれません。しかし、現場にとっては、長年ともに働いてきた「相棒」であり、今なお利益を生み出し続ける「貴重な資産」であるはずです。
その資産価値を未来につなげるかどうかは、「安全な移設」にかかっています。
「うちのこの古い機械も、移設できるだろうか?」 「移設と電気工事をまとめてお願いすると、費用はいくらになるのか?」
もし今、そうした具体的な不安や疑問をお持ちであれば、まずは専門家に相談してみることが、不安を解消する最も確実な第一歩です。
大切な資産である機械を1年でも長く、安全に使い続けるために、専門家の知見を活用することを検討してみてください。
移設の可否診断や、安全な移設プラン、費用の見積もりなど、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

