「みんなで持てば大丈夫」が一番危ない。重量物運搬の人力作業に潜む労災リスク

「これくらいの機械なら、男手が5人もいれば運べるだろう」 「せーの!で一気に持ち上げよう」


工場のレイアウト変更やちょっとした移動の際、このような判断が下されることは少なくありません。しかし、その瞬間、現場には大きな緊張が走ります。


持ち上げた瞬間に誰か一人のバランスが崩れ、荷物がぐらつく。 床のわずかな段差や凹凸につまずきそうになり、ヒヤッとする。


こうした経験に、管理者として「従業員に怪我をさせてしまったらどうしよう」「もし高価な機械を落として破損させたら…」という恐怖を感じるのは、当然の感覚です。


「大丈夫だろう」という希望的観測のもと、従業員の善意や体力に依存する人力での運搬は、会社の未来を左右しかねない、極めて不安定な「賭け」に他なりません。




■ 人力運搬のリスクとは? 法律(安衛則)が定める「重量物の限界」

なぜ、人力での重量物運搬はそれほど「危ない」のでしょうか。その根拠は、現場の感覚だけでなく、法律(労働安全衛生規則)にも示されています。


労働安全衛生規則では、労働者が人力で取り扱う重量について、目安を定めています。例えば、成人男性が継続して作業する場合、取り扱う重量は体重のおおむね40%程度(体重60kgなら約24kg)が限界とされています。


もちろん、これは継続作業の目安であり、瞬間的にはそれ以上を持てるかもしれません。しかし、数百キロ、時には1トンを超えるような「重量物」が、この基準からどれほどかけ離れているかは明らかです。


現場で「人力で運ぼう」としているその機材は、本当に人間が安全に運べる重さでしょうか。


選択肢は3つあります。 ① 事故のリスクを承知で、人力(マンパワー)で無理に運ぶ。 ② 不適切な機材(小型の台車など)で、不安定なまま運ぶ。 ③ 専門知識と機材を持つ、プロの業者に依頼する。


言うまでもなく、①と②の選択肢は、従業員と会社の資産を重大な危険にさらす行為です。




■ プロが「人力」を避ける理由。危険は「落とす」ことだけではない

重量物運搬の専門家たちが、可能な限り「人力」での作業を避けるのには明確な理由があります。危険は、運搬中に「手を滑らせて落とす」という瞬間だけではないからです。


プロが恐れるのは、むしろ「隠れた危険性」です。


重心が掴めず、ゆっくりと転倒する 人力では、機械の正確な重心を把握し続けることが困難です。バランスを崩した際、ゆっくりと倒れ込んでくる機械から、作業員は逃げ場を失い、下敷きになって大怪我につながるケースがあります。


運搬経路の床が重さに耐えられない 機械の重量と作業員の体重が一点に集中することで、見た目ではわからなかった床が抜けたり、陥没したりする危険性があります。


作業員の身体への慢性的なダメージ 一度の運搬で事故に至らなくても、無理な姿勢での作業は、作業員の腰や関節に深刻なダメージを蓄積させます。ぎっくり腰や椎間板ヘルニアといった労災の原因を、会社が作っていることにもなりかねません。


専門家は、これらのリスクを総合的に判断し、「安全が確保できない」からこそ、クレーンや専用台車といった「機材」を使うという、極めて合理的な判断を下しているのです。




■ 「コスト削減」が「数千万円の損失」に。人力運搬が招く最悪の事態


「業者に頼む費用を浮かせたい」という短期的なコスト削減の判断が、結果として数百倍、数千倍の損失となって返ってくる。それが人力運搬の最大の恐怖です。


万が一、事故が発生した場合、会社は具体的にどのようなコストを負担することになるのでしょうか。



・(1) 労災事故の発生(人的コスト)

従業員が負傷すれば、当然ながら労災(労働災害)となります。治療費や休業補償だけでなく、会社の「安全配慮義務違反」が問われ、民事訴訟に発展するリスクも抱えます。さらに、労災保険料の増額や、公共事業の入札停止など、経営への影響は計り知れません。



・(2) 設備の転倒・破損(物的コスト)

もし運んでいたのが数百万円、あるいは数千万円もする精密機械だったらどうでしょうか。人力での運搬中に転倒・落下させれば、修理不能な損傷を受け、スクラップになる可能性もあります。買い替えにかかる費用は、本来の移設費用とは比較になりません。



・(3) 生産ラインの停止(機会損失コスト)

従業員の負傷や機械の破損は、即、生産ラインの停止を意味します。復旧までの間、生産はストップし、納期の遅延が発生します。顧客からの信用を失い、取引停止に至る可能性すらあります。


これら3つのコストの総額は、当初削減しようとした専門業者への依頼費用を遥かに上回ります。「安全は最大のコスト削減である」という言葉の通り、人力に頼る判断がいかに危険な経営判断であるかがわかります。




■ 安全な業者は「機材」で選ぶ。失敗しない専門業者選びの2つの条件


従業員と会社の資産をこうした深刻なリスクから守るためには、人力に頼らない「専門業者」への依頼が不可欠です。


では、本当に安全な作業をしてくれる業者を、どう見極めればよいのでしょうか。その基準はシンプルです。



・基準①:重量や現場の状況に応じた「専門機材」を保有・運用しているか?

安全な運搬は、精神論ではなく「機材」によって担保されます。クレーン車、フォークリフトはもちろんのこと、狭い場所やデリケートな床面でも安全に運べる特殊車両、専門の運搬機材(チルタンク、エアキャスターなど)を自社でどれだけ保有しているか。それが、その業者の安全への投資姿勢と技術力を示す何よりの証拠です。



・基準②:運搬だけでなく、安全な「設置・据付」まで一貫して任せられるか?

プロの仕事は「運ぶこと」で終わりではありません。「安全に再稼働させること」までがゴールです。人力での運搬を試みるような「ちょっとした移設」であっても、安全に機械を設置し、水平を出し(据付)、場合によっては電気や配管を正しく接続し直す作業が伴います。これらを一貫して任せられる業者こそが、本当の安全を提供してくれます。


業者がどのような専門機材を駆使して安全な作業を実現しているか、その一端は、業者のウェブサイトなどで公開されている保有機材のラインナップ(例えば https://www.zen-kg.jp/tools )からも確認することができるでしょう。




■ 従業員を「危険」に晒す経営判断を、今日で終わりにしませんか


この記事では、重量物を人力で運搬することの具体的な危険性と、それが会社経営に与える深刻な影響について解説してきました。


「これくらい大丈夫だろう」 「みんなで頑張れば運べる」


その安易な判断、その一言が、現場で汗を流す従業員を重大な危険に晒し、会社の存続をも揺るがしかねない最大のリスクとなります。


従業員の安全を守ること。会社の貴重な資産である設備を守ること。それは、管理者や経営者にとって最も重要な責務のはずです。


「自社のこの作業、本当に人力で大丈夫だろうか?」 「もし事故が起きたら…」


その不安を、見て見ぬふりをしてはいけません。 まずは、その作業がどれほどのリスクをはらんでいるのか、プロの目で診断してもらうことから始めてみませんか。

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